渇き

爆破音が,右耳から聞こえてくる.僕は民家の壁を遮蔽物として,敵の発砲が終わるのを待っている.手が汗ばんでいる.ギュッと握ると,その丸みを帯びた部分が食い込んでいたい.もう2時間も,ずっと握りしめているのだ.

僕は,敵の戦車が通りすぎたことを確認すると,ストップボタンを押して,クーラーの温度を少し下げる.コントローラーの汗をTシャツの袖で拭いて,コントローラーを握りなおす.ええと,そう,戦車.

僕は戦車の視界に入らないようにしながら,前進する.もうかなりヘッドショットを決められるようになってきた.戦車に向かってスモーク・グレネードを投げておく.

一人称視点シューティングゲーム(FPS)が,実は戦争のための兵士育成をするために作られていて,僕らは実は,知らず知らずにプレーしているという記事(陰謀論,に近いだろう)を読んだことを思い出す.

バカバカしい話である.

もし仮にそうだとして,では,猟奇連続殺人気に関するゲームはどうなるんだろうか.あるいは,それは極秘裏に人を殺して,できるだけ見つからないようにする殺人鬼を作り上げていることになるのか.

やはりバカバカしい.

セーブポイントを抜けたことを確認して,ポーズボタンを押し,台所にいって冷蔵庫を開ける.中には冷えた炭酸水が入っている.ボトルを手にとって,コップをそこらへんから取り,中に注ぐ.ぱちぱちぱち,と乾いた音が聞こえる.

でも…と考える.もし,まだFPSなどのゲームをしたことがない僕に,戦争や猟奇殺人に関する知識が全く無かったとすると,それら知識は,ドラマや映画やゲームなんかで,植え付けられたものであるということになる.それがどんどん大きくなっていく,としたら?もし僕がゲーマーでなかったら,あるいはドラマを見ない人だったら,そんな考えは思い浮かばない.だとすれば,僕はアイデアを植え付けられたのだろうか.そそのかされているのだろうか.

僕はボトルとコップをもって,部屋に戻る.クーラーの温度を少し上げる.さっきからやけに喉が渇く.爆音は鳴り止んでいる.

握ったコントローラーが,やけに重い.

いや,これは本当にコントローラーなのだろうか.あるいは,これは本当に,単なる喉の渇きなのか.

 

 

 

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