ADACHIGAHARA 2.0

「ねえ,あの人,迷ってるんじゃないかな.」

私の後ろを歩く女が,こそこそともう一人の男に話しかけているのが聞こえる.リュックサックを背負い直して,森のなかを歩いて行く私には,なかなか痛い言葉だ.この山のローカルガイドをして2年,道を知り尽くしていたつもりだったが,どこかで道を間違えてしまったようだ.

「さ,もう一息ですよ.」

私は振り返り,笑顔で言う.

「本当?こんなところで野宿なんかになったら私…」

いかにも都会育ちな女のほうが,不安そうな視線をこちらに投げかけてくる.無視し,どんどん歩いて行くことにする.さすがに男のほうは頼りにしてほしいからか,不安な表情はするものの,何も言わない.すると,

「あっ!あそこ見て!」

女のほうが声を上げる.ぼんやりと明かりが見え,どうやら,民家があるようだ.

(こんなところに民家?)

いかにも怪しい.見上げると,暗闇はもうすぐそこまで来ている.先程から同じ所をぐるぐる回っている気がする.

(仕方ないか・・・)

私は,携帯電話を取り出し,GPSをオンにする.いざというときのために,この辺りの地図はダウンロードしてある.オフラインだが,GPS機能は使えるのだ.コンパスアプリも起動し,ルート検索を開始する.山道までは表示してくれないが,方向は示してくれる.そもそも道なんて無いのだ.

私たちは怪しげな民家を横目に,どんどんと道を歩いて行く.すると,10分もしないうちに,真新しい道路に出た.彼らが泊まるはずの民泊はここから1キロとないはずだ.やはり,惜しいところまで私は着ていたみたいだった.モバイルバッテリーも持ってきたので,まだ迷えるぞ,とか思ってしまう.

「すみません,こんなこと始めてで…」

「大丈夫ですよ,ちょっと冒険みたいで楽しかったです.」

男はほっとしたように言った.私たちはまた歩き出す.たとえ道に迷ったって,暗闇が来たって,鬼になってしまった人食い老婆が出てくる隙は,もうこの安達ケ原にはない.ここはもう,14世紀ではないのだ.

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中